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企業分析:WebMD (ウェブMD) アメリカ医療制度と健康情報

WebMDとはアメリカのヘルスケア情報メディアです。
そのビジネスは大きく消費者向けと医療従事者向け、企業向けに分かれています。

>消費者向け

消費者向けサービスは同社のフラッグシップでもある”WebMD”が中心です。
http://www.webmd.com/

健康や疾病に関するニュース、疾病辞典、薬事典、
健康情報のトラッキングツール、病院検索など
あふれんばかりの情報が提供されています。

ウェブサイトだけでなくアプリも提供しており、
WebMD、妊婦向け、ベイビー向け、アレルギー、疼痛など
細かいラインナップとなっています。

主な収益源はOTC(一般医薬品、ドラッグストアで買えるもの)やサプリメント、
健康グッズなどの広告になります。


>医療従事者向け

医療従事者向けは”Medscape”を提供しています。
http://www.medscape.com/

主には疾病情報(初期診断や症状の解説)、医薬品情報(効果、用法用量、禁忌)、外科手術の術式、
医師の生涯教育支援などとなっています。

主な収益源は製薬会社の新薬の宣伝や医療機器の広告となっています。


>企業向け

もう1つ、企業向けの従業員のヘルスケアマネジメントツールを提供しています。
http://www.webmdhealthservices.com/

これは企業に提供される福利厚生サービスのようなもので、
従業員向けに健康情報の提供、パーソナルコーチの提供、IT健康管理などをパックで提供するものです。



■ビジネス規模

同社の売上はFY15にUSD 636 Mn、日本円で約724億円規模となります。
EBITDAはUSD 193 Mnとメディア企業らしく利益率約30%です。
売上のCARGは約11%です。

売上のうち約58%は医療従事者向け広告、20%が消費者向け広告です。
17%は企業向け、残りはその他です。


>医療従事者向け

製薬業界はもともと営業マン、MRを中心とした
セールス活動を行っていました。

医師に新薬の情報を提供するとともに、
昔は接待やキックバックを提供して
その薬を使ってもらっていたのです。


たとえば同じ肺がんにしても、
いくつかの種類の薬があります。

ただ、どの患者にどの薬がベストかは非常に判断が難しい。
効果は同じ、副作用の大小も治験内容からでは
明確な有意差が見られない・・・

そうした場合は、やはりたくさんMRから情報提供してもらったほうを選んだり、
接待してもらったから選んだり・・・ということになりがちなのです。


しかし、そうしたことは正しい医療選択に悪害を与えるとして、
先進国では接待やキックバックはもちろん、MRの訪問規制も行われるようになりました。

また、2000年台中頃には医師のインターネット利用率も高まり、
USでは2008年には80%の医師がネットで治療情報を集めているとされました。

そうしたことから、マーケティング、セールス費用が徐々に
ネット広告へシフトしたという背景があるのです。

たとえば、アメリカの処方箋医薬品の市場は30兆円ほどあり、
仮にそのうち1%がネット広告に使われるとすれば
3000億円規模ということになります。
WebMDはそのうち15%ほどのシェアを持っているといえます。


>消費者向け

しかし、驚くべきは消費者向けでも
150億円規模の売上をあげていることです。

Everyday Healthなどの競合もいることから
消費者向けOTC,サプリの広告市場は非常に大きいと言えるでしょう。

たとえば日本でも健康食品などの情報を集めているウェブサイトは存在しますが、
これだけの規模のメディアには育っていません。
スポンサーは付きつつも、ほそぼそとやっているケースが多いでしょう。


■アメリカの医療制度

その背景にはアメリカの医療制度が大きく関わっているものと思われます。

オバマケアで風潮は変わりましたが、
アメリカはもともと医療も市場原理に任せる、
国民も自己責任で医療を受けるという考えがメジャーでした。


※オバマケアについてはこちらが詳しいです。
アメリカの医療制度は自由市場主義的なシステムから社会主義的なシステムに向かっている
アメリカの医療制度は自由市場主義的なシステムから社会主義的なシステムに向かっている


皆保険制度も無いため、
国民は民間医療保険を自己選択するか、
企業の福利厚生で提供されるものに加入します。
もしくは、節約のためにあえて加入しないという選択もありました。

医師は保険の補償範囲内で過剰医療を提供する傾向にあり、
(これは日本でも起こっていることですが)
たとえば不必要な検査、不必要な薬を渡して
医療費をかさましすることが問題となりました。

アメリカの場合、医療サービスには病院が自由に値付けできます。
自由競争とはいえ、患者からすれば検査や薬の必要性の判断が難しく、
また他の病院やクリニックと比較することも難しい。
実際のところは競争が働かず、ただ単に医療費の高騰を招いていたのです。

日本はおおむね、医療行為や医薬品は健康保険で値段が決まっています。
患者はすべからく3割負担で済む・・・ということを利用して
過剰医療を提供することもありますが、高い値段をふっかけることはできません。


さて、そうした医療費高騰に頭を痛めて民間保険会社は
保険で受けられる医療の内容を厳しく選別するとともに、
受診できるクリニックや病院も選別し、
保険会社が利益をあげられる範囲での制限を組みました。

医師ではなく民間保険会社が主体となって
医療をコントロールするという稀有な市場となったのです。

日本のように気軽にクリニックに行って
3割負担だけして、何事も無ければホッとして帰宅する・・・
というわけにはいかないのですね。


■アメリカの医療費

アメリカの1人あたり医療費は突出して高いです。

クリックして02.pdfにアクセス


2010年においてアメリカは1人あたり8,233ドル、日本は3,035ドルです。
高齢化が進み、病床数が圧倒的に多い日本の2.5倍ほどですから、
異常とも言える水準でしょう。

これは、たとえば医薬品でいえば処方箋薬もOTC医薬品でも
日本より高い傾向にあります。

日本よりも多くの医療を受ける一方で、
多くのセルフメディケーション、おそらくはサプリなども含めて
投資しているのではないかと推測されます。


その背景には、

(1)自由競争市場導入
(2)医療サービスの値付けが自由
(3)過剰医療の提供
(4)保険会社が抑制につとめているものの、国民にとっての過剰医療の「当たり前化」
(5)過剰な健康意識から、過剰なセルフメディケーション市場の醸成

といったことがあると思われます。

また、訴訟社会を背景として医師が「しっかり検査した」というエビデンスを残すために、
これまた過剰な検査を提供しているという説もあります。


■WebMD発展の経緯

WebMDの消費者向けビジネスというのは、
こうした国の文化、文脈に沿って最適化されて育ったのではないかと思います。

WebMDのキャッチフレーズは
「Better Information, Better Health」ですが、
皮肉な見方をすればアメリカの医療社会を如実に反映したとも受け取れます。

過剰な健康意識、過剰なセルフメディケーションに対して
製薬会社やサプリ会社が相当のお金を払って広告を出すのは
アメリカ市場においては合理的な選択です。

たとえばWebMDで肺がんと検索すれば
以下のように山程情報が出てきます。
http://www.webmd.com/lung-cancer/default.htm


その一方で、アメリカ内ですら
WebMDに対しては一定の批判があるようです。

「過剰な健康意識に対して過剰な情報提供を行い、
結果として過剰な検査、医療、セルフメディケーションを促している」

というものです。


以下の様な記事があります。

Why WebMD might actually be bad for your health
http://www.dailydot.com/lifestyle/webmd-cyberchondria-research-study/


しかし、過剰医療の責をWebMDに持たせるというのも酷な話でしょう。
消費者が求め、医療者が提供するという構図の中で間に入って情報を整理しているに過ぎず、
過剰医療を生み出しているのはもっと根深い制度、長期にわたる民間保険会社のロビー活動など、
様々な要素があるからです。


■WebMDの強さ

そうした背景の中で、WebMDはあらゆるヘルスケア情報を網羅して
消費者、医療従事者の双方に提供しており、
15年以上にわたって積み重ねられたコンテンツは他社の追随を許しません。

健康情報について調べるならGoogleからWebMDかという
コンセンサスが国民の中で出来上がっており、
かつGoogleで病名や薬名を検索してもWebMDはたいてい上位にヒットします。


ただし、リスクとしては、
結局売上の半分程度は医療従事者向け広告で稼いでおり、
さらにその大半は製薬会社に依存していることです。

製薬会社が強力な新薬を作れなくなった昨今において、
マーケティング費用が縮小される可能性があります。


■そもそも最適な医療とは何か

最後に、ここまで書いておいてなんですが、
アメリカの医療を十把一絡げに過剰だとみなすのも乱暴な議論です。

あくまで平均的、大局的に見れば相対的に医療費が高いというだけで、
部分部分では最適な量が提供されている部分もあるはずです。

また、最適な医療の定義も難しいところです。
疾病が治る率、5年後生存率、寿命のような医療アウトカムで評価する方法もあれば、
選挙で大統領が決まるという意味では国民の納得度という要因もあるでしょう。

いまのアメリカの医療が良い悪い、
それに乗っかるWebMDがどうのこうのというよりは、

本質的には各国の文化や医療政策背景にあわせて
ビジネスをやっていくことが大事だと思うのです。

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